松陰高等学校と湯山先生について教えてください。
当校は、2011年に設立された広域通信制高等学校で、山口県認可の学校法人です。さまざまな形の「生徒と社会の接続」にコミットするための教育機関を目指し、通信制度を活用しながら、生徒の将来を見据えた教育をしています。お陰様で現在、全国に約40校舎を構えており、この10月にも4拠点を新たに設立しました。一方で、少人数制の教育にこだわり、生徒一人ひとりとのオフラインでのコミュニケーションも重視する教育方針を掲げています。私自身は、学校長に着任して1年半ほどです。前職で広告業界にいたのですが、元々教育分野には興味があり、これだけ多様化の進んでいる世の中で大きく変わる必要のある教育というステージで、社会全体のためになる仕事がしたいと思い転身を決意しました。
現在の教育業界において、何を改善すべきでしょうか。
現在の日本の学校教育における大きな課題は2つあると考えています。1つ目が「教育のDX化」。現在、タブレットを活用する教育が国の方針で進行されていますが、本当の意味でDXを促進するのであれば、指導側の教育インフラシステムなどの導入も必要なのではないでしょうか。先生は依然として、膨大な量の資料や統一的なテスト作り、レポートチェックなどの作業に手を取られているのです。そして2つ目の課題が、生徒一人ひとりへの最適な教育、「アダプティブラーニング(適応型学習)」の促進です。個々を尊重する時代に、これまでの画一的な教育方法は本当に適しているのでしょうか。特に当校のような通信制の学校ですと、個々の学習スピードが異なるケースが多いため、より生徒一人ひとりに合わせた教育環境を提供する必要があります。この課題を解決すべきだと考えていた時に、「たんぽぽ」を知りました。
AI教育プラットフォーム「たんぽぽ」に期待されることは何でしょうか。
子供や親の視点から見た教育ツールサービスは多くありますが、教育現場の改善も視野に入れたサービスはまだまだ少ないように感じます。「たんぽぽ」はまさに、先生の業務過多問題を解決し、生徒一人ひとりに合わせた教育を実現できるツールなのではないでしょうか。例えばテストやレポートの作成と採点。設問となるデータベースを学校で共有し、適切な設問が自動レイアウトされれば、これまでのテスト作成作業時間を大幅に削減できます。そして採点に関しても、自動採点によって膨大な採点時間を短縮し、その分生徒と向き合う本質的な教育に時間を充てることができるのです。今は設問の正誤採点のみ対応可能ということですが、今後文章の読取り精度がさらに上がれば、先生は文章回答に関しても最終確認のみでよくなるはずです。そうすればさらに効率良く、生徒一人ひとりに適した教育「アダプティブラーニング」が実現できるようになるでしょう。
今後の教育業界はどのように変化していくと考えられますか。
これからは、より学校が選ばれる側になると予想しています。学力や地域などで区分されていた学校の選択ですが、今後はそのような社会属性的な基準がフラットになるのではないでしょうか。代わりに、子どもに適した学校を子ども自身が選ぶようになる。その際に、学力以上に学校の思想や取り組み、メッセージが判断基準になってくると考えています。現在、定員割れなど少子化の影響を受ける教育業界ですが、通信制高校全体では生徒数は増加傾向にあります。これは画一的な教育の時代の終焉が近いことを意味するかもしれません。我々が思う教育の本質は、AI、IoT、少子高齢化、グローバル化などといった社会の変革に真摯に向き合い、生徒一人ひとりに多くの選択肢を提示することではないかと考えています。今後もそのメッセージを発信し続け、子どもたちが自身の進路を選ぶときに、選択肢の1つになれればと思います。当校だけでなく日本の各学校が、メディア等を通じてメッセージを発信し、オープンにすることで教育業界を相対的にビルドアップしていきたい。そんな未来を想像して、我々は情報を発信し続けています。
今後の展望を教えてください。
こんなものがあったらいいな、と思うことを教育現場で一緒に作り上げていく、という学校体制をより強化していきたいです。生徒や先生方、全員を巻き込んで進行すると、新システムの導入に対するハードルを緩和できるという利点もあります。目まぐるしいスピードで革新を続ける現代社会において、学校はより柔軟になる必要があります。システム導入の他にも、社会実践的なカリキュラムも積極的に取り入れたいと考えています。実際に、スタートアップ企業のアプリサービスの開発に、授業を通じて生徒の意見を取り入れていくなどのプロジェクトも立上げ、生徒もいきいきとした姿を見せてくれています。生徒たちは一人ひとり自分の選択に本当に真剣です。その姿勢に我々も身が引き締まりますね。自分がやりたいことが分からなかった生徒が、様々な取り組みを通して前進していく様子を見ていると、私自身もやりがいを感じます。座学としての教育も大事ですが、社会との距離を縮め、知見を高める機会を作ることも、今求められている教育なのではないでしょうか。今後も子どもたちのために、新しい取り組みを積極的に行い、教育業界全体のビルドアップに奔走していく所存です。