加藤様のご活動と、「Möbius」活用方法を教えてください。
「STEMラーニングラボ」の事業化は今年の3月ですが、以前よりSTEM教育とプログラミングに携わっていました。2009年から学習院大学の数学科で数学講話1という授業を非常勤講師として担当し始め、その時には「Möbius」の前身であるシステムの活用を始めていました。数学講話1は、数学ソフトウェア「Maple」の基本操作と活用方法を学ぶための授業です。「Maple」は、カナダのMaplesoft社で開発された数式計算や数値グラフを作成する数学ソフトウェアのことで、学習院大学では、教員・在学生ともに利用できる背景があるんです。このSTEM教育に恵まれた環境は国内でも珍しく、数学ソフトウェアに対して非常に前向きな姿勢であるといえます。
「Maple」を活用してSTEM学習を行う際に、数学的な側面の知識と、ソフトウェア上の数式コマンド(ルール)の2つの側面を理解しなければいけません。これら両方を網羅するテストを作成し、生徒たちの回答を採点する業務が非常に複雑なんです。
そこで私はテスト業務と成績管理において、「Möbius」を採用しました。「Maple」コマンドをそのまま「Möbius」で採点し、結果をデータ収集してくれるので、通常の計算課題に加え、「Maple」自体の使用方法を問う問題も簡単に出題・管理できるようになりました。また、実際に数学講話1を共同担当されている数学科の中島先生も、その効果を実感しているとのことです。(以下中島先生より)「数学講話1は実習科目なので、対面で細かく対応することを基本としていますが、Möbiusを採用した結果、対面授業以外にオンラインでの学習成績評価が実現しました。オンラインでの教材は、『いつでも好きな時間にアクセスできる』『何度もやり直しができる』ということで、学生には好評だったようです。教員から見ても、対面の実習とオンラインでの自主学習の組み合わせは、教育効果の向上に非常に効果があったと感じています」。
「Möbius」は具体的にどんな課題を解決できたか、詳しく教えてください。
今だからこそ効率的なSTEM教育が可能になりましたが、「Möbius」を使い始める前は、膨大な量の採点業務に悩まされていました。学生から提出された「Maple」の計算課題のファイルを1つずつ開いて採点する必要があり、そのファイルが200を超えたときは本当に大変でしたね。悩んだ末に、独自に自動採点システムを作ったりして対応していたのですが、新しい課題を出す度にシステム改修が必要で、結局その改修時間もかかってしまっていました。
しかし、「Möbius」を併用したことにより、採点業務が文字通りゼロになりました。そのおかげで、採点作業にかかっていた膨大な時間を、本来熟考すべきである教育カリキュラムの改正や授業内容のPDCAなどに充てられるようになったのは1番大きい利点としてあるのではないでしょうか。また、学生一人ひとりの成績は、成績表という機能に集計されるので、成績管理作業に関しても大幅に時間短縮ができました。その成績管理データから、学生たちがピンポイントで分からない点はどこか、を明確に把握できるので、次年度のカリキュラム編成の際に、確実な必要修正箇所が浮き彫りになることも助かっているポイントです。
大量の複雑問題を管理できるようになったので、「Maple検定」というテストを独自に作成して活用しています。これは、「Maple」に関する問題を「Möbius」を通して回答してもらうことで、手離れの状態で学生が好きな時に何回でも受験できるMaple活用方法学習テストです。指定期間中に、学生が受験をするたびにその結果が成績管理表に逐一集まってきますので、学生がどのような学習状況なのかが分かるのはもちろん、学習姿勢などもデータを通して分かります。取り組む姿勢も定量的にデータ化されることで、より良い個人指導も実現するのではないかと思っています。
今後のSTEM教育に関して、何か計画されていることはありますか
今後は、地域に向けてSTEM教育の向上・普及をしていきたいと考えており、秋頃に「Möbius」をプラットフォームにしたプログラミング教室のようなワークショップを計画しています。数学や物理問題を受講者の方に解いてもらうのはもちろん、「Möbius」の問題作成機能を活用して、エンジニアリングの知識を活用し数式問題を作る授業内容も構想にあります。新しい時代のSTEM教育として、「STEAM教育」が提唱されていますよね。従来のSTEM教育に加えて、手を動かしてものを作り学んでいき、想像力や自由な発想を育むという考えです。そのために、公式や定理などの数学的な知識と、プログラミングのノウハウが同時に必要になりますが、これらを同時に学ぶことができる「Möbius」は、非常に画期的です。教材を開発することは、コンピューター上でのモノづくりに値すると思っていますので、よりよい教材(モノ)を作っていくために、オンラインSTEM学習のプラットフォームとして今後も「Möbius」を活用していきたいと考えています。