■クラウド・AI時代に合わせたAI音声認識での操作を実現
――AI音声認識機能の操作性はどうですか?
松田様(以下、敬称略):「JoyGolfにつないで」と話しかけると、AIが応答してメニューを操作できるようになります。発話内容をクラウドサーバーに送信してテキスト化して指示を出す仕組みで、グーグルが提供している技術を活用しています。今後は、このように既存技術を組み合わせて自社に合ったサービスを開発する時代になっていくと実感しています。
現在AI・音声認識プログラム搭載の「JoyGolfSmart+」を全国5カ所のショールームでお客様にテストしてもらっている段階です。実際に使ってみると、うまく聞き取れなかった場合の対応をもう少しスムーズにできないか、練習場で音声認識をする場合は雑音の中でどう聞き取るかなど、いくつかの課題が見えてきます。それらを解消しつつ、次のステップとして既存顧客に無償で利用してもらい、そこから得たフィードバックを開発や販売に活かしていく予定です。
実は、谷原秀人プロから直接連絡をいただきまして、コロナでの在宅を機会にお子さんと一緒にラウンドを回れるようになりたいとのご要望で、ゴルフシミュレーターをご自宅に設置しました。最近はこのような個人宅へのゴルフシミュレーター導入が増えてきております。ゴルフシミュレーターというとお金がかかるイメージがありますが、近頃は機械の台数も増えてきて、安価にご提案できるようになっております。ちなみに、晴海タワーの共用部にもゴルフシミュレーターが設置されています。
――音声認識機能を入れた理由を教えてください。
松田:JoyGolfは国内で1400~1500台ほどの販売実績があり、その中にはマンションの共用部に導入したものや、個人宅に設置したもの含まれます。2年前くらいにカメラセンサーがモデルチェンジした頃から一気に市場に浸透しました。ハイスピードカメラでクラブの入り方とか、ディンプル(ボールのくぼみ)の回転でシミュレーション測定をしています。そこまで精度が上がっているのです。
ゴルフシミュレーターはプロジェクターとスクリーンが付属してインターネットに接続していることを活かして、今はゴルフ以外にも映画やカラオケ、家庭用ゲーム機器と連動したフィットネスなど家族にも楽しんでもらえるような提案をしています。
家庭で大人から子供まで使うようになったことで、今度はマウスの切り替え操作が複雑でわかりにくいという課題が生まれました。そこでAI音声認識を使ってユーザービリティーを改善したいと考えました。また家族で使用するのであれば音声で全て操作できれば面白いし、生活の一部としてなじみやすいと考えたこともあります。
――AIパートナーとしてHOUSEIを選んだ理由は?
松田:まずAIに対して真摯に開発を進めている企業だという印象がありました。またGoogle Homeなどのノウハウを非常に多く持っていたこと、そして何よりも私たちの状況に寄り添った提案をしてもらえたことです。既存技術をベースに不足部分を追加開発する提案をしてくれたので、低コスト、短納期が可能になり、私たちの要望にマッチしました。またグローバル展開することを考えて日・英・中国語の精度が高いGoogleアシスタントを採用しました。
――今後について、サービス拡充やロードマップなどございましたらお聞かせください。
松田:団塊世代(1947~1949年生まれ)にもゴルフは人気がありますが、今は免許の返納問題などもあって自分で運転してゴルフ場に通えない人も多くいます。またゴルフをしたくても様々な理由でできない人もいます。そのような人たちのニーズにも応えるかたちでシミュレーションゴルフをさらに拡げて、ゴルフ人口を増やしていきたいと考えています。
技術的な視点では、AIと併せて5Gにも期待しています。5Gで高速・大容量の通信が可能になれば今までできなかったような新しいイベント事業や動画配信など、これまで以上にリアルで新しい体験を提供できるようになります。通信環境の問題で難しかった遠隔でのオンラインゴルフレッスンを実施できます。遅延がないことを活かしてプロのプレーをライブ中継したり、オンラインで開催するゴルフ大会も実現可能です。
現在はeスポーツというとデジタル機器を用いて行うゲームを指しますが、バーチャルでプレーするシミュレーションゴルフもeスポーツになりえると考えています。シミュレーションゴルフは、もともとスクリーンに打ったボールの映像が投影される「スクリーンゴルフ」と呼ばれていて、そこからシミュレーションゴルフという名前で浸透してきました。これからは新しいeスポーツのひとつとして「eスポーツゴルフ」と呼ばれるようになるでしょうし、そういったものにしていきたいと思っています。
(左)酒井 隆宇様 株式会社ファイン ゴルフランド事業部
(右)松田 幸洋様 株式会社ファイン ゴルフランド事業部 営業
■国内メーカーとしてシミュレーションゴルフ業界の立て直しを目指す
――貴社の事業・サービスについて教えていただけますか?
松田:株式会社ファインは1989年1月に愛媛県で酒類の輸⼊・販売事業として創業しました。1994年に東京へ進出後、アパレル事業や飲食事業、アミューズメント事業へと拡大し2000年にシミュレーションゴルフ関連事業を行う「ゴルフランド」を立ち上げました。
現在はシステムの開発も含めてシミュレーションゴルフ・デジタルコーチングシステム関連の製造・販売、保守管理をメインで行っています。
――ゴルフランド事業を立ち上げた経緯を教えてください。
松田:1998年から自社で運営していたスポーツ・アミューズメント施設「U PARA(ユーパラ)」に、他社のゴルフシミュレーターを設置していました。来場者からも人気が高かった一方で、海外製品のためプログラム開発や保守管理の面で課題がありました。それならばいっそ自社で開発すればもっと面白く、管理もしやすいものが作れるのではないかと代表の酒井(注:代表取締役CEO 酒井 雅英様)が考えたことからゴルフランドが生まれました。
もちろん最初はノウハウもないので、大手メーカーであるイギリスのスマートゴルフ社と正式なアライアンスを組んで開発したのが「JoyGolf(ジョイゴルフ)」というシミュレーターでした。当時は打球を計測するのに床にセンサーを設置するのが主流でしたが、私たちは床、壁、天井の3カ所にセンサーを設置する3ラインセンサーを新たに開発しました。ボールをどこに置いて飛ばしても正確に計測できるのが特徴です。その経験を活かして現在では自社開発のオリジナル製品を製造しています。
会社としては、楽しいことに貪欲で、それを形にしてゆくイメージがあります。大工さんや、電機を扱えるメンバーも居る。それが強みですね。お客様からも、実際に「ゴルフランドなら面白いことをやってくれる」というお声もいただきます。
ゴルフシミュレーターは、当初はあらかじめプログラムを組んで「ユーザーが打つと3回まではまっすぐ飛ぶ、4回目は左に飛ぶ映像を投影する」といったように実際にボールが飛んでいる方向は関係なく、決められた映像を投影していました。
今では実際にクラブにボールが当たった瞬間やスピンの角度をコンピューターが計算して再現した映像を投影しています。かなりリアリティーがある映像になっているので、最新のシミュレーションゴルフを昔のシミュレーターのイメージを持っている人がプレーするとその違いに驚くはずです。
――シミュレーションゴルフの業界について教えてください。
松田:シミュレーションゴルフは韓国で人気があったコンテンツを日本に導入したもので、アミューズメント業界で一大ブームが起きました。当時は開発メーカーも30社以上ありましたが海外メーカーがほとんどだったため、ブームが下火になるのに合わせて撤退してしまい現在は4社ほどにまで淘汰されています。
多くの海外メーカーが撤退したことで、それらの機器を利用していた施設では保守などのアフターサービスが受けられなくなってしまい問題になりました。シミュレーションゴルフは売ったら売りっぱなしという悪いイメージがついてしまい、業界自体の信頼が非常に揺らいでいた状況でした。
私たちは開発メーカーであると同時にアミューズメント施設を運営する側でもあったため、施設側の苦労がよく理解できました。そのため国産で信頼できる機器を製造するほかに他社メーカーのメンテナンスも極力協力するようにして業界の信頼回復に取り組んでいます。