コンセプトは「買ってすぐに使える」
ユーザビリティの追求
管 この度、弊社とシチズン・システムズさんが共同開発した顔検温発券機「WID検温プリント」 (シチズン・システムズ社での販売名は「CQ-S601ⅡR」)が発売されました。御社の強みであるプリンター/印刷技術と弊社の顔認証検温端末を連動させた製品で、インターネット環境、パソコン不要で誰でも簡単に設置ができ、わずか数秒で検温から発券までできる優れものです。プロジェクト自体はコロナ感染症が猛威を振るっていた2020年にスタートしたわけですが、あらためて弊社との協業を決めた理由について教えていただけますか。
向島 弊社はプリンターの専門メーカーとして商品企画から開発・製造・販売を一貫して実施し信頼性の高い製品をお客様にご提供する事業を主として来ましたが、数年前よりプリンター単品の販売ではなく、他の端末と組み合わせ、課題解決型のソリューション製品でお客様に「付加価値を提供すること」を目指すようになりました。そこでまず、専用タブレット端末と小型サーマルプリンターを連動させた整理券発券機をリリースしました。次のソリューション製品として、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり御社の顔認証検温端末「WelcomID」に関心を持ち、御社担当者様から製品をお借りし社内で実際に使用してみたころ、認証や検温のスピードがとても速く、社員の評判も良かったことから製品化を本格的に進めることとなりました。
管 それはありがとうございます。今回の共同開発では、御社の厳格に管理された製品開発プロセスを経験させていただき、弊社としては大変勉強になりました。製品開発にあたって特に重視されていた点は何でしょうか。
向島 弊社はソリューション製品を開発するに当たりコンセプトとして「買ってすぐに使える」「簡単に使える」ことを目標に決めました。そこで、今回の顔検温発券機は、パソコンなどを介さずプリンターと直接接続して使うことができ、設定もスマートフォンからできるようにしたり、台紙がなく何度も貼り直すことができるライナーフリーラベルを採用したり、ユーザビリティを追求しました。パソコンと接続しての設置作業は面倒ですし、互換性などによりトラブルの原因にもなりますので、「パソコン外し」は弊社の開発の重要なポリシーです。製品の機能もユーザーにとって大変わかりやすく、顔を近づけるだけで即座に検温でき、結果が顔写真とともに印刷され、それを証明として残せるというものです。
管 ビジネス界隈では電子化、ペーパーレス化に関心が注がれていますが、そんな時代における本製品の魅力や強みについてはどうお考えですか。
向島 ペーパーレスに注目は集まっていますが、「紙の良さ」は確実にあると思っています。スーパーのレシートが電子化されスマートフォンなどで確認できても、お客様はアプリを立ち上げて「積極的に」確認しに行かなければなりません。紙のレシートであれば「勝手に」出て来たものをその場でチェックできます。今回の製品でも、スマートフォンに認証データを送付したり普通の紙に印刷したりできますが、ライナーフリーラベルで胸部など見えるところに貼り付けておけば、第三者が「勝手に」確認できる利点があるわけです。スマートフォンのデータとして保存されている場合、第三者はその方にお声がけをし、確認させて貰う必要が生じます。不特定多数の方々が集まる医療機関やイベント会場などでは、「誰が見てもわかる場所に貼られている」ということは、それなりの価値を提供できるものと考えています。
互いの技術を掛け合わせ
不確実な世の中の変化に対応していく
管 今回の共同開発ですが、御社はプリンターや印刷技術に関する知見が深く、製造能力も大変高い。弊社はソフトウェア開発が専門ということで、お互いの長所を持ち寄り、それらを掛け合わせたからこそ実現できたプロジェクトだと認識しています。オープンイノベーションやDXとも絡んできますが、私は変化のスピードが速い現代では、オープンにみんなで協力し合い、より良い製品・サービスをいち早く投入していくことが重要ではないかと考えているのです。
向島 そうですね。弊社でもDXを進めていますが、今後はそうした取り組みをしっかりやっているところと、そうでないところで効率等の面で大きな差が生じてくるだろうとは感じています。その一方で、日本の企業ではなかなかDXが進まない、定着しない理由として「面倒だから」という本音が見え隠れしている気がします。理屈上の「有効性」と実際の運用の「面倒臭さ」を天秤にかけた際に、「面倒」が勝ってしまうと誰も使わないDXになってしまいます。
管 確かにそうですね。我々はシステムなどを提供し、企業のDXを推進していく立場にありますが、やはり「扱いにくい」「煩雑な」システムですと、お客様は面倒と感じてしまいます。
向島 人の行動というものは、DXが進もうが、デジタル化が進もうが、そこまで大きくは変化しないと思っています。外食する場合、人の行動はレストランに行って、食事をし、清算して帰るだけです。アプリで注文でき、電子マネーで支払えるようになったとしても、行動そのものは変わってはいません。ですから、デジタル化をそんなに複雑に難しく考える必要はないと思っています。今やっている普通のことを、いかに簡単に、またわかりやすく便利にしていくかが重要だと、私は感じています。
管 恐らくですが、みんな欲張って最初から完璧なことをしようとするから、DXも進まないのでしょうね。先ほどのレストランの例では、まず予約部分だけデジタル化し、お客様が慣れてきたら徐々に他の部分でも対応していくと。そういう意味では、製品作りにしろ、イノベーションを推進するにしろ、「シンプル」「わかりやすさ」を追求していく姿勢は欠かせませんね。
向島 多くの方々に使っていただきたいのならば、説明書も何も見なくても、「感覚で使えるもの」を提供することが理想的だと思います。弊社が取り扱っているようなBtoB製品ですと、価格が高いだけでなく、業者の方が設置し、設定しなければならない製品も多いです。ただ、弊社としてはなるべく価格を抑え、ユーザー自身で設置・設定できる製品を提供していきたい。見方を変えれば、そういう製品を提供することで、ユーザーの裾野を広げていきたいという狙いもあります。
管 今はコロナや世界情勢含めて不確実な世の中なので、顧客ニーズの変化を的確にとらえ、臨機応変にシンプルでわかりやすいものを提供していくことは、なかなかハードルが高いですが、今回の製品に関して「今後の展開」などは考えていますか。
向島 ネットにつなげてクラウドを活用し、サービスの機能や便利さを向上するのは直ぐにでも取り掛かりたいですね。顔認証と受付システムを連動させたりすれば、さらなる価値を生み出すことがきます。また、この製品に限らず、AIを有効活用し蓄積したデータからサービスを提供できるような製品や機能を充実させていきたいとも考えています。
管 弊社はシステムやソフトウェア、アプリ開発に強い企業ですが、顔認証検温端末「WelcomID」などではAIが大きな役割を担っています。今回の共同開発をきっかけに、AI含め、今後も様々なソリューション開発でご協力させていただければ幸いです。その際には「シンプルで使いやすい」を共通言語に、お互いの長所を掛け合わせることでシナジーを発揮し、「社会のDX推進」という課題にも挑戦していきたいですね。本日はありがとうございました。
HOUSEIとシチズン・システムズが共同開発 簡単設置ですぐに使える【WID検温プリント】発売開始 検温→発券までわずか数秒、受付をスムーズに