1.故障予測を「パターン認識」が可能にした
現在私は、レーザーを出す機械の故障予測の研究をしています。ガス圧や電圧、パワーなどを測定し、今どういう状態かを推定しようとしています。決まった時期に交換する、というのが従来の対応でしたが、今は寿命をAIで予測出来るようになってきました。予定より早く壊れそうなものは交換する。それは、かつて研究していた切削工具も一緒でしたが、壊れそうだという予測はなかなか実現が難しかったです。なぜなら、集めたデータを早い時間で、短時間で判断しなければならないが、その頃はデータを集めること、処理することができませんでした。処理能力や処理手法が未熟であったためです。
人は多くの情報をもとに総合的に判断しています。車の変化も調子が悪いとか、もうそろそろ寿命かなとか、乗っていると分かりますよね。例えば煙が出たとか匂いが出るとか、音・振動の変化とか。組み合わせの状態で良い時と悪い時はだいたい分かるけど、データとして、どういう状態か良いのか悪いのかが1つに決まっているわけではありません。現在は多くのパターンの複合全体で判断できるようになってきました。ただ、そのためには、ビッグデータのような、多くのデータが必要です。
2.パターン処理が可能にしたこれまでのDXと、未来のDX
DXは、パターンとして処理ができるようになったことで進んできたと言え、DXは人間で言うところの「感じる」ところまでは来たと言えます。昔は1つのデータをデジタル化して、運んで、処理するが、非常に単純な処理しかできなかったものが段々多くの複雑な処理が出来るようになってきました。人間に例えるとAが入ったらBを出力するのではなく、瞬時に非常に多くのパターンを大脳で処理しています。「考える」とはそういうことです。
未来のDXは、更に情報の大きな塊のパターンとして考える、という方に行くのではと思います。データをただ集めるだけでなく、集めて、マクロなパターンから推論をしていくものです。
科学や技術の進歩は人の力を増幅することで進歩してきました。移動とか考えとか、計算能力ですね。一台の機械では計算しかできないが、そうではなく「機械が、機械に対して行う」パターン認識。そう行けば間違いないのではないかと思います。
3.「機械としての思考」で、ブラックボックスの意思を聞く
機械のことは機械が知っている。たとえば、車の気持ちを想像してみると分かりやすいと思います。あれも、人工知能や電子回路で組み上がった(体系化された)機械と言えます。
20から30年位前に、世界のコンピュータのメモリの総量がようやく人間一人の脳に相当するようになったと考えられています。あの頃はまだ何もできませんでしたが、今は一人が人一人の脳に匹敵するメモリ(コンピュータ)を一台持てるくらいになってきました。しかし同じ位のメモリを持っていても、人間の脳がなぜこれほどの処理が可能か?それはパターン処理しているからと考えます。
人間の脳には非常に多くのパターンが記憶されていて、つなぎ合わせて、情報処理しています。それを「思考」と呼んでいます。しかし人間の思考には限界があります。ブラックボックスを外から類推して見えるようにしていく技術、それがDXと考えます。可視化するだけでなく、機械として思考して人間にできないパターンを見つけ出してゆきます。
ブラックボックスは人間の集合としてのシステムを含んでおり、将来的にそれを見るのは機械に委ねられて、中そのものを変えるのは人間がやるのではないかと思います。ウイルス退治とか遺伝子操作のような感じですね。
このように、DXとは、外からの切り口と考えます。DXの最終形は、機械あるいは情報の集合体としてのシステムのどこが悪いかという声を聞けるように**「ブラックボックスの意思を聞く」**のがDXになると考えています。
第2回では「機械としての思考」に焦点を当ててお伝えします。