2022年11月30日、サンフランシスコに拠点を置くOpenAIが「ChatGPT」を公開しました。サービス開始からわずか2か月で、1億人のユーザー数を獲得し、史上最速で成長を続け、世界中で注目を集めている同サービス。今回は、コンピューターが世界に発表された時と同じ、もしくはそれ以上の衝撃をもたらしたといわれるその背景を探り、ChatGPTの可能性と懸念点などを考察します。
ChatGPTに集まる注目
ChatGPTとは、OpenAIが開発している大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)のGPT(Generative PretrainedTransformer)を用いたチャットAIサービスです。大規模言語モデルとは、人間の話す言葉をモデル化した「言語モデル」を用いて、膨大なデータから事前学習する深層学習モデルのことを指します。近年、大規模言語モデルはGoogleやOpenAIをはじめとして研究が加速しており、ChatGPTも長年の研究開発から派生した、大規模言語モデルの1つのバージョンという位置づけのサービスです。
既存のチャットサービスであるSiriやAlexaなどとは仕組みが全く異なり、ChatGPTはより自然な受け答え、かつ知的な反応を可能にしました。また、様々な自然言語処理タスクに使用できる汎用性の高いツールなので、コンテンツ制作者、エンジニアなどの専門知識職問わず、高品質のテキスト応答を、迅速に生成することができます。
ChatGPTには、従来とは異なる強化学習が使われており、継続的な人間からのフィードバックが必要だと言われています。無料で全世界へ向けて公開されたのも、そういった背景もあると考えられています。
広がるChatGPTの可能性
OpenAIは2023年3月15日、既存の「GPT-3.5」モデルのアップデート版である「GPT-4」モデルを発表しました。一般向けには有料サブスクリプションという形で提供されているGPT-4は、よりさまざまな専門的分野で精度の高い回答を迅速に出せるようになったといいます。実際に、アメリカの模擬司法試験では、GPT-4が受験者の上位10%の点数を獲得できた例も挙げられるなど、その可能性と活用方法に世界中がますます注目しています。
例えばIT業界では、プログラムの分野によって異なりますが、プログラミング業務における定番処理のコーディングであれば、 すでにChatGPTを活用することが可能です。特に大規模言語モデルの学習データに多く含まれるWeb系などの分野で効果を発揮するでしょう。現時点でもある程度可能ですが、近い将来に本格的に可能になると思われる詳細なカスタマイズ機能が付与されれば、分野専用モデルを作ることができ、活用用途はさらに広がりを見せると言われています。
そのほか、ChatGPTを搭載した汎用型ロボットの実現、カスタマーサポートやモビリティ業界における音声ChatGPTによる自動案内の充実、あらゆるビジネスシーンでのコンテンツ制作、教育業界での教育ツールとしての活用など、将来的に幅広い業種での活躍が期待されています。
ChatGPTの懸念点
一方、イタリアでは、ChatGPTの個人データ管理に問題があるとして、国の政府機関がOpenAIに、イタリアでのChatGPT提供を一時的に停止するように要求しました。そのほか、アメリカの起業家であるイーロン・マスク氏をはじめとする1,700名以上の著名専門家たちが、「人類への深刻なリスク」を訴え、開発を一時的に止めるべきだと警鐘を鳴らしています。AI開発が人間のコントロールを超える日も近く、社会的な安全性を担保する取り決めの制定を迅速に行う必要があると主張しているのです。
AIが出した結論に対して、人間はその過程が分かりません。例えば、AIが危険な言動をしたとしても、なぜその結論に至ったのかという原因が突き止められず、阻止する手段がないのです。サイバー犯罪も多様化し、ChatGPTを悪用した情報操作が行われる可能性も拭えません。AIの進化は加速する一方ですが、社会や開発元までもが、適応できないスピードになりつつあるでしょう。以上のことから、各業界で危険性を訴える専門家は一定数存在します。
また、ChatGPTの回答が適切かどうかを判断する際、利用者の専門的知識も問われることとなります。使用側の人間も、どのような対応が適切であるのかが問われているのです。日本でも、教育現場などでの活用を巡り、文部科学省が指針を取りまとめる方針だと表明しています。革新的な技術にリスクはつきものですが、今後どのように安全性を担保し、実用化するのかは重視すべきポイントとなるでしょう。
最後に
多分野で活用される未来を想像する時、ChatGPTの出す答えの正確性や倫理性は、現段階では確証が得られません。平和的かつ有効的に制御して活用することが可能になれば、人類に大きく貢献するソフトウェアとなりますが、やはり課題は山積みです。しばらくは、あくまでもコミュニケーションツールや簡単なコンテンツ作成に限定される可能性が高いと考察されています。とはいえ、「AIが人類にとって変わる役割を担う」未来を現実的に考えさせられる大きなきっかけとなったことも事実です。今後もChatGPTは世界の注目を集め続けることになるでしょう。